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認知症に関する資料

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「認知症医療とケアの連携」

住み慣れた家や地域で安心して暮らし続けるために

 厚生労働省研究班による最新の報告によると、認知症の患者数は全国で439万人(新聞等の報道では462万人)とのことであります。 この数は糖尿病、悪性新生物、脳血管疾患、虚血性心疾患の患者数をすでに上回っており、さらに今後の社会の高齢化の促進に伴い患者数は一層増えるものと見込まれます。 また同報告では65歳以上の高齢者のなかでの認知症の人の割合は15%と推計されており、この数字をあてはめると大牟田市には5,750人(2013年4月1日現在)の認知症の方がおられることになります。 このように患者数が多いため認知症の診療は特定の医療機関や医師のみでの対応は不可能です。 またほとんどの認知症疾患では罹病期間が数年から十年以上と長期に及ぶため、病期に応じ状態が進行してゆく患者さんへの対応は長いスパンでのかかわりが求められます。 また関係する分野も医療のみならず介護や行政など多職種との連携が欠かせません。

 大牟田市では「認知症になってもだれもが住み慣れた地域で安心して暮らせるまちであり、思いやりにあふれ、誰もが生き生きと暮らせるまちを目標とする」(大牟田市長宣言、2002年3月13日)という市是が掲げられて以降、関係各位の努力により認知症診療とケアの様々な取り組みが成されてきました。 さらに2011年には当院(国立病院機構大牟田病院)が福岡県認知症医療センターに指定されました。 ここでは大牟田におけるこれまでの認知症への取り組みの紹介と今後の課題について報告いたします。

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 大牟田市の認知症対策の始まりは、2001年に大牟田市介護サービス事業者協議会が自主的な勉強会である認知症ケア研究会を発足させたことです。この研究会は事務局を大牟田市役所の保健福祉部長寿社会推進課に置き、官民協働で活動を開始しました。翌2002年、大牟田市は施策として「認知症地域コミュニケーション推進事業」を立ち上げ、以降以下のようなさまざまな取り組みが行われてきました。

認知症コーディネーター養成研修
認知症コーディネーターはデンマークの「地域高齢者精神医療班」の「認知症コーディネーター」をモデルとするものです。

地域の介護施設職員、看護師、保健師、ソーシャルワーカー等を対象とし、認知症の人と家族を理解し、尊厳を支え、より良いケアや支援を導くことができるような人材を育成することを目的とし2003年から養成研修が始まりました。
2年間の履修期間を終えた終了者約90名が認知症コーディネーターとして大牟田市内のグループホーム、小規模多機能型居宅介護事業所、病院等に配置されています。
また地域包括支援センターには全箇所に配置されています。国の「認知症地域支援推進員」のモデルとなっているものです。

もの忘れ予防・相談検診

もの忘れ予防・相談検診認知症の早期発見を目的として、(原則)65歳以上の市民を対象に無料でもの忘れ検診を市の事業として行うものです。医師(もの忘れ相談医、協力医)、認知症コーディネーター、地域包括支援センター職員、市役所職員、が協働で運営に参加します。
検診の流れは、タッチパネル式パソコンを用いたスクリーニングを年16回各地の地域交流施設で行い、ここで異常疑いと判定された受診者については年2回開催される総合検診においでいただき、医師による問診と心理検査を受け(診察や画像検査はなし)、暫定的な診断をくだします。
希望する受診者では、その結果についてかかりつけの先生へも報告書を送ります。
並行して全受診者に認知症のミニ学習会やミニ予防教室をうけていただきます。
2006年から始め、これまで1,500名近い市民が受診しています。受診した方のうち、認知症についての精査が必要と判断された方や何らかの予防が必要と考えられた方の割合は三分の一近くに及んでいます。

予防教室「ほのぼの会」

予防教室「ほのぼの会」主にMCI(軽度認知障害)レベルの人を対象とする認知症予防のためのプログラムです。 週一回、3ヶ月間計12回を1セットとして、市内6カ所の地域交流施設で開催しています。リハビリ、ゲーム、料理、小旅行、回想法などの内容です。
当院「もの忘れ外来」を受診した方でMCIと診断した方に私はよくこの教室を紹介しています。 紹介する医師側にも、受講する側にもメリットのある企画だと思います。 スケジュール等については中央地域包括支援センターに問い合わせれば教えていただけます。

徘徊模擬訓練

徘徊模擬訓練2004年駛馬南小学校区で始まった徘徊者捜索模擬訓練が第1回目で、2007年には市内7校区、2009年には18校区と広がり、2010年には市内全校区で取り組むようになりました。
訓練の時には毎年全国から多くの関係者が視察に訪れ、今や同様の訓練に取り組む動きが全国に広がっています。

模擬訓練に関連して徘徊者の迅速な発見のため関係各方面への連絡網(SOSネットワーク、愛情ネットワーク)作りも完成しました。またネットワークの網は大牟田市から筑後全体の広域ネットワークへと拡大しました。

認知症絵本教室

認知症絵本教室2004年、子供たちと家族が一緒に認知症を学べるように絵本「いつだって心は生きている」が制作されました。
絵本を使った教育は大牟田市内の小学校4年生から中学校2年生を対象に総合学習の時間を使って行われます。

認知症診療・ケアの資源マップ

大牟田市における、認知症専門医のいる医療機関、「もの忘れ外来」対応の医療機関、認知症コーディネーターのいる施設、地域交流施設、地域密着(認知症対応)型サービス事業所、問合せ・相談機関などの載った資源マップが出来ています。

家族支援と本人支援

家族支援と本人支援認知症の患者家族を支援する目的で月1回「家族の集い・語らう会」が開催されています。 認知症コーディネーターと社会福祉協議会が共催しています。
若年認知症の患者本人同士の情報交換、交流などを目的に若年認知症本人交流会「ぼやき・つぶやき・元気になる会」が月に1回開催されています。 地域密着型サービス事業所をベースに認知症コーディネーターと社会福祉協議会が共催しています。

認知症サポートチーム

専門医と認知症コーディネーターがチームを作り、受診やケアが困難な認知症患者の対応について、本人・家族・介護職員をサポートする目的で2009年より始まった(モデル)事業です。
主な活動は「定例カンファレンス」と「認知症なんでも相談室」です。
前者は、実際に現場で困っている事例や支援を終了している成功・失敗事例などをもとに、さまざまな職種が集まり多角的な視点で意見を交換する事を目的とした事例検討会で、月1回開催されます。 上記チームメンバーの他、関係機関からも適宜参加され活発な会となっています。
後者は、認知症に関する無料相談室を週1回保健所内に開設し、来訪、電話いずれの相談にも対応するものです。 担当者は認知症コーディネーター6名が交替でうけもっています。 サポートチームのメンバーへはメールで報告があり、必要に応じて専門医がアドバイスすることもあります。

以上、大牟田市では「住み慣れた家や地域で安心して暮らし続けるため」、認知症に関して様々な取り組みが行われてきていることがお分かりいただけたと思います。 これらは主として官(大牟田市)と民(志の高い介護専門職)とのパートナーシップから生まれたものです。
中には国内でもユニークな試みや先進的な仕組みのものもあり、しかもしっかりした成果をあげ、大牟田市の取り組みは全国的に注目されています。
地元にいてはあまり実感しませんが、外に行くと関係者から「大牟田はすごいですね」とか「大牟田は日本のケアのメッカだ」などといわれることがあります。
しかしながらこれら大牟田の認知症対策への称賛はケアに携わる人々や行政担当者など介護関係者へのものであり、医療関係者への評価はまだまだのレベルであります。
大牟田が「認知症になっても住み慣れた地域で安心して暮らせるまちであり、思いやりにあふれ、生き生きと暮らせるまち」となるように、大蛇山の山車の両輪のように、介護側と連携しながら医療側は“動く”ことが求められると思います。

医療とケアの連携

当院福岡県認知症医療センターは、センターの役割の一つである「医師向け研修会」を本年9月より開催し、かかりつけ医の先生方の認知症診療の対応力向上のお手伝いをさせていただきます。 1シリーズ4回(毎月1回)の研修会(所要時間1時間半)となっています。 詳しくは別途ご案内を差し上げる予定です。
大牟田市における認知症医療が総体としてレベルアップするように、そして医療とケアとが良好な連携体制を構築することができるように、大牟田市民が「安心して暮らし続け」ここに住んで幸せだと思っていただけるような大牟田になるように、皆さまと力を合わせてゆければ、と考えています。 引用雑誌名『大牟田内科小児科医会報 2013年8月号より』